もう迷わない!有価証券報告書のサステナビリティ情報開示義務化への対応ロードマップ
2025年10月9日
サステナビリティ情報の開示義務化にどう対応?有価証券報告書の作成方法と企業価値向上への繋げ方
2023年3月期決算の有価証券報告書から、サステナビリティに関する情報の記載が義務化されました。「具体的に何から手をつければ良いのか」「どのような情報を、どうやって集めればいいのか…」といった悩みを抱える経営者や実務担当者の方も多いのではないでしょうか。
この有価証券報告書におけるサステナビリティ情報開示の義務化は、単なる報告業務の追加ではありません。適切に対応することで、投資家からの評価を高め、企業の持続的な成長、すなわち企業価値向上に繋げる絶好の機会となり得ます。
本記事では、開示義務化の基本から、具体的な作成方法、そして企業価値向上に繋げるためのポイントまでを、5つのステップで分かりやすく解説します。
1. そもそも有価証券報告書におけるサステナビリティ情報開示の義務化とは?
まずは、制度の基本を正確に理解することから始めましょう。今回の義務化は、企業のサステナビリティへの取り組みを投資家が正しく評価するための世界的な潮流を受けたものです。
1-1. 義務化の対象企業と開始時期
今回の開示義務化は、2023年3月31日以降に終了する事業年度に係る有価証券報告書から適用が開始されています。
主な対象は、金融商品取引法上の有価証券報告書提出会社であり、具体的にはプライム市場上場企業をはじめとする大手企業が中心となります。しかし、サプライチェーン全体での取り組みが重視される昨今、今後は対象が拡大していく可能性も考えられます。
1-2. なぜ今、サステナビリティ情報開示が求められるのか?
背景にあるのは、ESG投資の世界的な拡大です。
ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの観点を指します。近年の投資家は、従来の財務情報だけでなく、企業のESGへの取り組み、特に気候変動などが事業に与えるリスクといった非財務情報を重視するようになりました。
つまり、サステナビリティ情報の開示は、投資家が「この企業は持続的に成長できるのか?」を判断するための重要な判断材料となっているのです。
ESGとは?
- Environment(環境): 地球温暖化対策、再生可能エネルギー利用、生物多様性の保全など
- Social(社会): 人権への配慮、労働環境の改善、地域社会への貢献など
- Governance(企業統治): 取締役会の多様性、コンプライアンス遵守、情報開示の透明性など
2. 開示が必須!サステナビリティ情報を構成する4つの要素
金融庁は、サステナビリティ情報開示の枠組みとして、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言などを参考に、以下の4つの要素で開示することを求めています。
【ここに「サステナビリティ情報開示の4つの構成要素の関係図」の画像/図を挿入】
2-1. ①ガバナンス:サステナビリティに関する監督体制
「誰が、どのようにサステナビリティ課題を監督・管理しているのか」を示す項目です。
具体的には、
- 取締役会による監督体制
- サステナビリティに関する方針決定プロセス
- 経営者の役割
などを記載します。経営層がサステナビリティを重要な経営課題として認識し、適切に管理している体制を示すことが求められます。
2-2. ②戦略:気候変動などがもたらすリスクと機会
「気候変動などのサステナビリティ課題が、自社の事業にどのような影響を与えるか」を分析し、それに対する戦略を示す項目です。
- 短期・中期・長期のリスクと機会の特定
- リスクと機会が事業、戦略、財務計画に与える影響
- さまざまな気候変動シナリオを想定した分析(シナリオ分析)
などを記載し、将来を見据えた事業戦略の韌性(レジリエンス)をアピールします。
2-3. ③リスク管理:リスクの識別・評価・管理プロセス
「サステナビリティ関連のリスクを、どのように発見し、管理しているか」という具体的なプロセスを示す項目です。
- リスクを識別・評価するための社内プロセス
- リスクを管理するための具体的な手法
- 全社的なリスク管理プロセスへの統合状況
などを記載し、リスクへの対応力が組織的に担保されていることを示します。
2-4. ④指標及び目標:具体的な目標と実績(GHG排出量など)
「リスクと機会を評価・管理するために用いる指標と、その目標」を示す項目です。
ここは具体的な数値が求められる重要な部分であり、
- 温室効果ガス(GHG)排出量(スコープ1・2の開示が必須)
- 設定した目標(例:2030年までにGHG排出量を30%削減)と、その進捗状況
などを記載します。
スコープ1, 2, 3とは?
GHG排出量の算定・報告における範囲(スコープ)のことです。
- スコープ1: 事業者自らによるGHGの直接排出(例:燃料の燃焼、工業プロセス)
- スコープ2: 他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出
- スコープ3: スコープ1, 2以外の間接排出(例:原材料の調達、従業員の通勤、製品の使用・廃棄など)
有価証券報告書では、まずスコープ1と2の算定・開示が必須となります。
3.【5ステップで解説】サステナビリティ情報開示の具体的な進め方
では、実際に何から手をつければ良いのでしょうか。ここでは、開示準備をスムーズに進めるための具体的な5つのステップをご紹介します。
【ここに「サステナビリティ情報開示の準備5ステップ」の画像/図を挿入】
3-1. ステップ1:全社的なサステナビリティ方針の策定
まず、自社がサステナビリティに対してどのような価値観を持ち、社会にどう貢献していくのかという基本方針を策定します。これは、全ての取り組みの土台となる最も重要なステップです。経営層が主体となり、自社の事業と社会課題との関連性を議論し、明確なサステナビリティ方針として言語化しましょう。
3-2. ステップ2:推進体制の構築と役割分担
策定した方針を実行に移すため、部門横断的な推進体制を構築します。多くの企業では、経営層をトップとした「サステナビリティ委員会」などを設置し、情報収集、目標設定、進捗管理などを担います。経理、総務、経営企画、製造、人事など、関連部署の役割を明確にすることが成功のカギです。
3-3. ステップ3:マテリアリティ(重要課題)の特定
自社にとって取り組むべき優先度の高いサステナビリティ課題を「マテリアリティ」と呼びます。
- 自社の事業に与える影響(リスク・機会)
- ステークホルダー(顧客、従業員、投資家、地域社会など)からの期待・関心
この2つの軸で評価し、マテリアリティを特定するプロセス(マテリアリティ分析)は、その後の戦略立案や情報開示の根幹となります。
3-4. ステップ4:GHG排出量の算定(スコープ1・2・3)
開示が必須となるGHG排出量の算定は、専門的な知識が求められる作業です。
- 活動量の収集: 各拠点での燃料や電力の使用量などのデータを収集します。
- 排出原単位の選択: 活動量あたりのGHG排出量を示す係数(排出原単位)を選択します。
- 排出量の算定: 「活動量 × 排出原単位」の式で排出量を計算します。
まずは必須であるスコープ1と2から着手し、将来的にはサプライチェーン全体を対象とするスコープ3の算定にも範囲を広げていくことが望ましいです。
3-5. ステップ5:開示情報の収集と報告書の作成
最後のステップとして、これまでに整理・分析した情報を有価証券報告書の記載項目に沿ってまとめていきます。各部署から必要な定性・定量データを収集し、ストーリーとして一貫性のある報告書を作成します。投資家をはじめとするステークホルダーに分かりやすく伝わるよう、図やグラフなども効果的に活用しましょう。
4. 情報開示は「守り」じゃない!企業価値向上に繋がる「攻め」の武器
サステナビリティ情報の開示は、手間のかかる「義務」や「コスト」と捉えられがちです。しかし、積極的に取り組むことで、企業の持続的な成長を後押しする強力な武器となり得ます。
サステナビリティ情報開示は、未来への投資です。
企業の社会課題への取り組みを明確に発信することは、新たなビジネスチャンスの創出、ブランドイメージの向上、そして最終的には財務的なリターンとなって企業に還ってきます。
4-1. ESG投資の呼び込みによる資金調達の有利化
適切な情報開示は、国内外のESG評価機関からの高評価に繋がり、ESG投資を重視する投資家からの資金を呼び込みやすくなります。これにより、安定的な資金調達や、資金調達コストの低減といったメリットが期待できます。
4-2. 採用競争力の強化と人材獲得
企業のサステナビリティへの姿勢は、求職者、特に若い世代にとって重要な就職先の選択基準となっています。自社の取り組みを積極的に発信することは、企業の魅力向上に直結し、優秀な人材の獲得・定着において大きな優位性を生み出します。
5. 専門知識が求められる開示対応はプロへの相談が近道
ここまで解説してきた通り、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示には、GHG排出量算定やマテリアリティ分析など、高度に専門的な知識が求められます。
5-1. なぜ専門家のサポートが必要なのか?
自社だけで全ての対応を進めようとすると、
- 国際的な開示基準や複雑な算定ルールへの対応が難しい
- 何が自社にとっての重要課題か、客観的な判断ができない
- 通常業務に加えて膨大な作業工数がかかってしまう
といった壁に突き当たることが少なくありません。専門家の支援を受けることで、これらの課題を効率的かつ効果的に解決し、質の高い情報開示を実現できます。
5-2. ユアサ商事「YES部」が提供するワンストップ支援
私たちユアサ商事のカーボンニュートラル専門提案部門「YES部」は、企業のサステナビリティ情報開示を強力にサポートします。
YES部のサステナビリティ情報開示支援
- 方針策定コンサルティング: 貴社の事業に合わせたサステナビリティ方針やマテリアリティの特定を支援します。
- GHG排出量算定: 複雑なスコープ1, 2, 3の排出量算定を代行・サポートします。
- 報告書作成支援: 収集・算定したデータをもとに、投資家に評価される報告書の作成をお手伝いします。
- 脱炭素ソリューション提案: 算定結果に基づき、省エネ・再エネ設備導入など具体的なGHG排出削減策までワンストップでご提案します。
長年ものづくりと工場の現場に携わってきた商社だからこそ、机上の空論ではない、現場に即した実効性のあるご支援が可能です。
まとめ
今回は、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報開示の義務化について、その背景から具体的な対応ステップ、そして企業価値向上への繋がりまでを解説しました。
- サステナビリティ情報開示は、ESG投資の拡大を背景とした世界的な潮流
- 開示には「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」の4要素が求められる
- 具体的な準備は「方針策定」から「報告書作成」までの5ステップで進める
- 適切な開示は、資金調達や人材獲得を有利にし、企業価値向上に繋がる
まずは、自社が今どの段階にいるのかを把握し、何が課題となっているのかを整理することから始めてみてください。もし、何から手をつければ良いか分からない、専門的な部分でサポートが欲しいという場合は、ぜひお気軽にユアサ商事「YES部」にご相談ください。貴社の持続的な成長に向けた第一歩を、私たちが全力でサポートします。