
溶接加工自動化のメリットと課題とは?種類・仕組みを解説
「溶接工程の自動化ってどうすればいいの?」
「自動化の導入は難しいのかな?」
このようなお悩みはありませんか?
溶接加工の自動化は、品質安定化と人手不足解消に役立ちます。適切な機器選定と導入手順を理解することで、効率的な生産体制が可能です。
そこで、この記事では、溶接自動化を検討中の方へ向けて基本概念から導入方法、課題解決策について解説します。
自動化の導入検討や効果的な運用の参考として、ぜひ最後までお読みください。
溶接加工の自動化とは

溶接加工の自動化とは、人が手で行っていた溶接作業を機械やロボットに任せることです。工場では働く人が足りなくなったり、製品の品質を一定に保つことが難しくなったりしています。そのため、溶接加工の自動化が重要になっています。
溶接加工の自動化には大きく2つのポイントがあります。
・自動化とは何か、なぜ必要なのか
・手で行う溶接と機械で行う溶接の違い
それぞれ詳しく説明していきます。
自動化の定義と必要性
溶接加工の自動化とは、溶接の作業を機械が自動で行うことです。
今、日本の工場では大きな問題があります。溶接の技術を持つベテラン職人が年を取り、技術を教える人が少なくなっています。また、若い人が工場で働きたがらないため、働く人が足りません。
さらに、人が手で溶接すると、その日の体調や集中力によって仕上がりにバラつきが出てしまいます。
自動化すれば、これらの問題を解決できます。機械は疲れることがなく、いつも同じ品質で溶接できます。危険な作業から人を守ることもでき、夜中でも休まず作業を続けられます。
手溶接・半自動・自動の違い
溶接のやり方は、人がどれくらい関わるかによって3つに分けられます。
下記の表で各手法の特徴を比較します。
項目 | 手溶接 | 半自動溶接 | 自動溶接 |
人の役割 | 全て手作業 | 材料送りのみ自動 | 全て自動 |
品質の安定性 | 人の技術次第 | 普通 | とても安定 |
作業の速さ | 遅い | 普通 | 速い |
導入費用 | 安い | 普通 | 高い |
使える場面 | 限られる | 普通 | 幅広い |
手溶接は、溶接棒を持つ手の動きから材料の送りまで、全て人が行います。半自動溶接では、材料を送る部分だけ機械が行い、人は溶接する部分に集中できます。自動溶接では、溶接の条件から機械の動きまで全てコンピューターが制御するため、いつも同じ品質で作業できます。
溶接加工自動化の種類

溶接加工の自動化には、いくつかの種類があります。使う機械や技術によって、それぞれ特徴が異なります。自動化を検討する際は、自分の工場に合った種類を選ぶことが大切です。
溶接加工自動化の主な種類は下記の3つです。
・自動溶接機による自動化
・ロボット溶接による自動化
・自動アーク溶接による自動化
それぞれ詳しく説明していきます。
自動溶接機
自動溶接機とは、決められた場所で自動的に溶接を行う機械です。
自動溶接機はひとつの場所に固定されており、製品を機械にセットすると自動で溶接を始めます。機械は事前に設定されたプログラム通りに動くため、いつも同じ品質で溶接できます。操作も簡単で、製品をセットしてスイッチを押すだけです。
この種類の自動化は、同じ形の製品を大量に作る場合に向いています。自動車部品や家電製品のように、毎日同じものを沢山作る工場でよく使われます。
ロボット溶接
ロボット溶接とは、人の腕のように動く多関節ロボットが溶接を行う方法です。
ロボット溶接では、6つの関節を持つロボットアームが自由に動きます。このロボットは複雑な形の製品でも、あらゆる角度から溶接できます。プログラムを変えることで、違う種類の製品にも対応可能です。
ロボット溶接は自動車工場でよく見かけます。車体のような大きくて複雑な形の製品を溶接するのが得意です。
自動アーク溶接
自動アーク溶接とは、電気の火花(アーク)で金属を溶かす溶接を自動で行う技術です。
この技術では、溶接の速度や電流の強さを機械が細かく調整します。そのため、薄い板から厚い板まで幅広く対応できます。人が手で行うよりも正確で、溶接の品質が安定します。
自動アーク溶接は配管工事や建設現場でよく使われます。長い直線の溶接や、同じパターンの溶接を繰り返す作業に向いています。人が行うよりも速く、きれいに仕上がるのが大きな利点です。
溶接加工自動化を支える技術

溶接加工の自動化は、複数の先進技術の組み合わせによって実現されています。これらの技術が連携することで、人間と同等またはそれ以上の精度と効率で溶接作業を行うことが可能になります。
溶接加工自動化を支える主要技術は下記の6つです。
・センサ技術(タッチ・非接触)
・ティーチング技術
・デジタル技術(AI・IoT・データ解析)
・自動搬送・投入技術
・ロボット制御技術
・品質管理・モニタリング技術
それぞれ詳しく説明していきます。
センサ技術(タッチ・非接触)
センサ技術とは、溶接位置や母材の状態を自動検出する技術です。
溶接の自動化において、正確な位置決めは品質を左右する重要な要素です。センサ技術はタッチ式と非接触式に大別されます。
タッチ式はワイヤやプローブを使用して物理的に接触し、溶接開始点や継手形状を検出します。
非接触式はレーザーやカメラを活用し、リアルタイムで母材の位置や変形を測定します。
項目 | タッチ式センサ | 非接触式センサ |
検出方法 | 物理的接触 | レーザー・画像処理 |
測定精度 | ±0.1mm以下 | ±0.5mm程度 |
測定速度 | 中程度 | 高速 |
設備コスト | 比較的安価 | 高価 |
メンテナンス | 接触部摩耗あり | 少ない |
近年では両方式を組み合わせたハイブリッドシステムも普及しており、作業効率と精度の両立が図られています。
ティーチング技術
ティーチング技術とは、ロボットに溶接の動作パターンや作業手順を学習させる技術です。
溶接ロボットは事前にプログラムされた動作に従って作業を行うため、適切な動作を教示する必要があります。従来のオンライン方式(実機操作)とオフライン方式(3Dシミュレーション)に加え、新しい手法も開発されています。
ダイレクトティーチングでは作業者がロボットアームを直接操作して動作を記録します。自動ティーチング技術では、AIとセンサーを活用して最適な溶接パスを自動生成します。特に自動ティーチングの普及により、従来数時間から数日要していた教示作業が大幅に短縮され、多品種少量生産への対応力が向上しています。
デジタル技術(AI・IoT・データ解析)
デジタル技術とは、AI・IoT・データ解析を溶接プロセスに統合する技術群です。 AI技術は溶接条件の最適化や不良予測に活用されています。機械学習により過去のデータから最適な電流値や速度を自動決定し、リアルタイムで溶接品質を予測します。IoT技術では溶接機器をネットワーク接続し、稼働状況や品質データを一元管理します。 データ解析技術は蓄積された溶接データから品質向上のための知見を抽出します。統計解析により不良要因を特定し、予防保全スケジュールを最適化することで、設備稼働率の向上と品質安定化を実現します。
自動搬送・投入技術
自動搬送・投入技術とは、溶接対象となる部品の搬送から位置決めまでを自動化する技術です。
従来の人力による重量物搬送は安全性とタクトタイムの課題がありました。自動搬送システムでは、ベルトコンベアやAGV(無人搬送車)により部品を自動搬送します。ロボットハンドや専用治具により、部品の把持から溶接位置への精密配置まで一貫して自動化できます。
3次元視覚システムと組み合わせることで、部品の向きや位置のばらつきにも対応可能です。この技術により24時間連続運転が実現し、生産性向上と作業者の安全確保の両立が図られています。
ロボット制御技術
ロボット制御技術とは、溶接ロボットの動作を高精度かつ滑らかに制御する技術です。
溶接作業では±1mm以下の位置精度が要求されるため、高度な制御アルゴリズムが必要です。サーボ制御により各関節を個別に制御し、溶接速度と姿勢を同時に最適化します。力覚センサーとの組み合わせにより、溶接中の熱変形に追従した動作補正も可能です。
複数ロボットの協調制御技術では、大型ワークの同期溶接や干渉回避制御を実現します。最新の制御技術により、従来困難とされた複雑形状部品の自動溶接も可能になっています。
品質管理・モニタリング技術
品質管理・モニタリング技術とは、溶接品質を自動検査し、工程管理を行う技術です。
溶接中のリアルタイム監視では、電流・電圧波形やアーク音を分析して溶接状態を判定します。X線検査装置や超音波探傷装置により、内部欠陥の自動検出も可能です。画像処理技術を用いた外観検査では、ビード形状や表面欠陥を高速で判定します。
統計的品質管理(SQC)手法により、品質データの傾向分析と異常予知を行います。これらの技術により、全数検査による品質保証と工程能力の継続的改善が実現されています。
溶接加工自動化のメリット

溶接加工の自動化には多くのメリットがあります。従来の手作業と比較して、品質・効率・安全性の全ての面で優れた効果を発揮します。製造業が抱えるさまざまな課題を根本的に解決できる技術として注目されています。
溶接加工自動化の主なメリットは下記の3つです。
・品質の安定化による製品信頼性向上
・作業環境の改善と安全性確保
・人手不足問題の解消
それぞれ詳しく説明していきます。
品質安定化
自動化により溶接品質が大幅に安定化します。
手作業では作業者の技量や体調により品質にばらつきが生じます。疲労や集中力の低下により、溶接速度や角度が変動するためです。自動化では事前に設定されたプログラム通りに溶接するため、常に一定の品質を維持できます。
溶接電流や速度、ガス流量などの条件を数値制御することで、ミクロン単位の精度管理が可能です。品質データの蓄積により、継続的な改善も実現できます。結果として製品の信頼性が向上し、顧客満足度の向上とクレーム削減につながります。
作業環境改善
自動化により作業者の労働環境が大幅に改善されます。
溶接作業では高温のアークと有害なヒュームが発生します。手作業では作業者がこれらの危険にさらされ続けるため、健康への影響が懸念されます。自動化により作業者は安全な場所から機械を監視するだけとなり、危険な環境から完全に解放されます。
重量物の取り扱いや無理な姿勢での作業もなくなるため、腰痛や筋骨格系疾患のリスクも軽減されます。夜勤や残業による身体的負担も軽減され、働きやすい職場環境の実現につながります。
人手不足解消
自動化により深刻な人手不足問題を解消できます。
熟練溶接工の高齢化と若年層の製造業離れにより、多くの企業で人材確保が困難になっています。技術継承も大きな課題となっており、ベテラン技術者の退職により技術レベルの維持が困難です。自動化により人に依存しない生産体制を構築できます。
24時間連続運転が可能となるため、人員を増やすことなく生産能力を倍増できます。また、作業者は機械の監視や品質管理など、より付加価値の高い業務に集中できるようになります。
自動化が進まない理由と対策

溶接加工の自動化にはメリットが多い一方で、導入が進まない理由も存在します。これらの課題を正しく理解し、適切な対策を講じることで自動化を実現できるでしょう。
自動化が進まない主な理由は下記の4つです。
・費用とスペースの制約による導入困難
・人材・スキル不足による運用課題
・素材や工程の制限による適用限界
・自動化に対する誤解や先入観
それぞれ詳しく説明していきます。
費用とスペースの課題
初期投資額の高さとスペース不足が導入の大きな障壁となっています。
溶接ロボットシステムの導入には数百万円から数千万円の費用が必要です。中小企業では資金調達が困難で、投資回収期間の長さも懸念材料となります。また、既存の工場レイアウトでは自動化設備を設置するスペースが確保できない場合も多くあります。
対策として、リースやレンタル制度の活用により初期負担を軽減できます。補助金制度の活用も効果的です。スペース問題は、コンパクト設計の装置選定や工場レイアウトの見直しにより解決可能です。段階的導入により費用とスペースの両課題を同時に解決できます。
人材・スキル不足
自動化設備の運用に必要な技術者不足が課題となっています。
ロボットプログラミングや保守メンテナンスには専門知識が必要です。既存の溶接技術者がこれらのスキルを習得するには時間がかかります。外部から技術者を採用することも困難な状況です。
対策として、メーカーによる技術サポートや研修制度の活用が有効です。社内教育プログラムの充実により、既存技術者のスキルアップを図れます。外部の技術コンサルタントとの連携も効果的な解決策となります。
素材や工程の制限
全ての溶接作業が自動化に適しているわけではありません。
複雑な形状や特殊な材料では自動化が困難な場合があります。多品種少量生産では段取り時間が生産時間を上回り、効率が悪化する恐れもあります。一品一様の製品では自動化のメリットを活用しにくくなります。
対策として、自動化に適した工程の選別が重要です。標準化や工程集約により自動化効果を高められます。フレキシブルな自動化システムの導入により、多品種生産にも対応可能です。
自動化への誤解
自動化に対する間違った認識が導入を阻害しています。
「自動化すると人が不要になる」「完全に無人化しなければ意味がない」といった誤解があります。また、「高い技術力がないと導入できない」「大企業でないと効果がない」という先入観も存在します。
実際には自動化は人の仕事を奪うのではなく、より価値の高い業務への転換を促進します。部分的な自動化でも十分な効果が得られ、企業規模に関係なく導入可能です。正しい情報提供と成功事例の共有により、これらの誤解を解消することが重要です。
溶接加工自動化の導入方法

溶接加工の自動化を成功させるには、計画的な導入アプローチが必要です。適切な機器選定から工程設計まで、段階的に検討することで効果的な自動化システムを構築できます。導入前の検討不足は、期待した効果が得られない原因となります。
溶接加工自動化の導入における重要なポイントは下記の4つです。
・ロボット選定基準の明確化
・ティーチング技術の習得
・適用工程の適切な見極め
・多品種小ロット生産への対応策
それぞれ詳しく説明していきます。
ロボット選定基準
ロボット選定では、作業内容に適した仕様の機器を選択することが重要です。
選定時に考慮すべき主要項目は可搬重量、動作範囲、位置精度、動作速度、拡張性です。可搬重量は溶接トーチと治具の合計重量に余裕を持たせて設定します。動作範囲は溶接対象のワークサイズと設置レイアウトから決定します。位置精度は要求される溶接品質に応じて選択し、一般的には±0.1〜0.2mm程度、高精度仕様では±0.1mm以下となります。
項目 | 小型ワーク用 | 中型ワーク用 | 大型ワーク用 |
可搬重量 | 6kg以下 | 20kg程度 | 50kg以上 |
リーチ | 700mm程度 | 1400mm程度 | 2000mm以上 |
設置面積 | 1㎡以下 | 4㎡程度 | 9㎡以上 |
動作速度は生産タクトタイムに影響するため、必要な処理能力を満たす仕様を選択します。拡張性では将来の機能追加を考慮し、軸数やセンサ対応能力を検討します。価格は周辺機器やシステム全体で大きく変動するため、総合的なコスト評価が必要です。
ティーチング技術
導入時のティーチング技術習得は、自動化効果を左右する重要な要素です。
基本的なロボット操作から溶接条件設定まで、段階的にスキルを身につける必要があります。メーカー提供の研修プログラムを活用し、実機を使った実習により実践的な技術を習得します。特に溶接パスの最適化とトラブル対応能力の向上が重要です。
社内での技術継承体制も整備が必要です。複数の技術者がティーチング技術を習得することで、属人化を防止できます。定期的な技術研修により、最新の機能や効率的な教示方法を継続的に学習することが推奨されます。
適用工程の見極め
自動化効果を最大化するには、適切な工程選択が不可欠です。 自動化に適した工程は、繰り返し作業が多く、溶接条件が安定している工程です。直線溶接や単純な形状の隅肉溶接は自動化効果が高くなります。一方、複雑な3次元溶接や頻繁な段取り変更が必要な工程は自動化効果が限定的です。 投資対効果の観点から、生産量と品質要求のバランスを考慮します。月産100個以上の製品であれば自動化によるコスト削減効果が期待できます。品質要求が厳しい製品では、自動化による品質安定化メリットが投資を正当化できます。
多品種小ロット対応
多品種小ロット生産では、段取り時間の最小化が自動化成功の要点となります。 従来の固定治具方式では品種変更のたびに治具交換が必要で、段取り時間が生産時間を上回る場合があります。対策として、汎用治具システムや可変治具の導入により段取り時間を大幅に短縮できます。また、オフラインティーチング技術により、生産停止せずにプログラム作成が可能です。 製品グループ化による効率化も有効です。類似形状の製品をグループ化し、共通のプログラムベースから微調整することで、ティーチング時間を削減できます。柔軟性の高い自動化システムの構築により、多品種生産でも十分な効果を得ることができます。
まとめ:導入のヒントと次のステップ
溶接加工の自動化は、品質安定化、作業環境改善、人手不足解消という大きなメリットをもたらします。自動溶接機、ロボット溶接、自動アーク溶接など多様な選択肢があり、センサー技術やデジタル技術の進歩により、複雑な溶接作業も自動化が可能になっています。
導入時は費用やスキル不足などの課題がありますが、適切な機器選定と段階的導入により解決できます。ユアサ商事のような専門商社では、製造ライン全体にワンストップソリューションを提案し、お客様のニーズに合わせた最適な生産システム構築をサポートしています。溶接加工の自動化を検討される際は、専門商社のコンサルティング機能を活用することで、スムーズな導入と効果的な運用を実現できます。
ユアサ商事では、多品種小ロットに対応した溶接の自動化にも注力しています。
溶接現場における熟練職人の減少が深刻化し職人不足の進行が予測される中、**「どのように自動化するか」「どのように職人のノウハウを継承するか」**は極めて重要なテーマです。
多品種小ロットの溶接技術の多くは、職人の頭の中と腕の感覚に依存しています。
私たちは、その技術・ノウハウを見える化・データ化し、企業の資産として蓄積すること、そして協働ロボットやAI技術を活用して再現・継承していく仕組みを、お客様とともに構築していきます。